7月は日本を代表するコルネット奏者の上野訓子さんによるコルネット講習会がありました。コルネットを演奏する人は大変少なく、国内でプロ活動しているのは上野さんを含め3~4人しかいないと思います。そんな楽器を吹く愛好家が果たしてどれくらいいらっしゃるのかと、若干不安に思っていましたが、なんと8名の方が受講、5名の方が聴講するという、なかなか賑やかな講習会になりました。コルネットは音を出すだけでも大変難しい楽器ですが、三日間にわたる上野さんの熱い指導で、皆さんの音がどんどん変わっていくのが感じられましたし、事実最終日にフィリア美術館での成果発表会は、受講者さんたちの音楽を楽しんでいる悦びにあふれた音が伝わる素晴らしいものでした。元々上野さんがこのフィリア美術館の大きなオルガンとのアンサンブルをお弟子さんに体験させたいという希望からスタートした講習会でしたので、発表会に先立ってこのオルガンを建造した草苅オルガン工房の草苅徹 夫氏のナビゲーションでデモンストレーションを行い、オルガンの知識を深めることもできました。受講者の皆さんからの要望もあり来年も7月あたりに同じような講習会を開くことになりそうです。
さて、この講習会には講師コンサートの位置付けでstudioRでの公演がありました。上野さんのコルネットに加えて丹
沢さんのバロックヴァイオリン、原謡子のソプラノと私(杉本)の通奏低音で、16世紀末から17世紀初頭スリリングなレパートリーを楽しみました。正統派の上野さんと、若干異端児とも言える丹沢さんの対決のような演奏もあり、小さな会場が熱気に包まれた公演でした。このコンサートの模様ではありませんが、上野さん、丹沢さん、原謡子の演奏は私のYouTubeチャンネル@shusukesugimoto6304でご覧いたけます。
【2023年6月】ライヴ「音楽室」公演「報告
原謡子がジャズ界のベテランベーシスト水谷浩章さんと二人だけでこれまた濃密なライヴをstudioRで行いました。私(杉本)も一体どんなライヴになるのか期待と不安のあまり、お客様に「リラックスして」聴いていただくために、ハンドドリップのコーヒーやお茶を提供してみようと思い立ちました。珈琲豆は現在studioRの建物で自家焙煎をしてくれている新BARNの焙煎師に頼んで私好みの深煎りで中庸な余韻の豆を焼いてもらう程の意気込みでした。そんな私のヤキモキとは裏腹にライヴ自体は快い緊張感のある、それでいてとても自然な流れがあり、「歌とベースだけというのもいいじゃない!」と十分に感じさせてくれるもので、水谷さんの完璧な技巧に裏付けられた闊達な演奏と表現力は歌といつも対等な会話をしているようでした。完全生音でのライヴでしたし、ミニマルな編成による独特な間(ま)があったりで、studioRの空間の響きが良い方向でマッチするライヴでした。バッハやディミニューションに始まって、水谷さんの複雑な表現の交錯するオリジナルのほか、私の作った歌曲も3曲演奏してくれました。自分が作った曲を誰かが新しい解釈で演奏してくれるのを聴くのは新鮮な喜びがあるものです。
【2023年5月】ムジカ・ロゼッタ10周年記念公演報告
ムジカ・ロゼッタ10周年記念公演を茅野市民館で行いました。大勢のお客様が駆けつけてくださって、本当にお祝いのような公演になりました。改めて感謝申し上げます。記念公演ではバロックヴァイオリンのヴィルトゥオーソ丸山韶さん率いるラ・ムジカ・コッラーナの主要メンバーを迎えて8人編成で華やかにお送りすることができました。丸山さんのヴィヴァルディのコンチェルトは圧巻の演奏でしたし、丸山さんと丹沢広樹さんの火花が散るようなラ・フォリアも忘れられない演奏でした。私はこの素敵なメンバーでソリストの一人としてバッハの規模の大きい協奏曲を弾くという機会をいただいたことは、良い思い出になりそうです。原謡子もバッハの大変美しいカンタータ82番を演奏し、あらためてバッハの奥深さ、魅力を感じることができました。
お客様からのアンケートも全ての方が書いてくださったのかと思うくらい本当にたくさん、心温まるご感想をお寄せいただき本当にありがとうございました。終演後に一枚一枚メンバー全員で噛み締めるように読ませていただきました。そして、「これからも、もっと面白い企画をして、皆様に楽しんでいただこう!」という決意を皆で新たにしていました。沢山のあたたかいメッセージ、本当にありがとうございました。
公演「バッハが弾いた?幻のチェロを追って」
ムジカ・ロゼッタ古楽コンサート vol.28
〜Violoncello da Spalla〜
八ヶ岳中央高原キリスト教会 (長野県諏訪郡原村原村1077-142)
2023年9月23日(土)13:30開場 14:00開演
前売一般¥3500 前売ペア¥6500 学生¥1500
小中高生無料 当日¥4000
天野寿彦 (ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ/バロックヴィオラ)
丹沢広樹(ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ/バロックヴァイオリン)
原謡子 (ソプラノ) 杉本周介 (オルガン)
バッハの伝記を書いた18世紀の著名な音楽学者のヨハン・ニコラウス・フォルケルが1872年に残した文章に次のようなものがあります。「この状況(ヴィオラとチェロの音域の中間を演奏する楽器の必要性)を打破するために、ライプツィヒ市の音楽監督であったヨハン・セバスティアン・バッハ氏はヴィオラ・ポンポーサと呼ばれる楽器を創造した。それはチェロと同じ調弦であるがさらに高音側に弦が追加されており、ヴィオラよりも幾分大きな本体を持っている。その楽器にはベルトが取り付けられていて胸の前で腕に抱えることができる。」ここにある5本目の弦を必要とするバッハの作品は複数見受けられ、有名な無伴奏チェロ組曲の第6番は5本の弦を持ったチェロのためにという指定があります。またカンタータのアリアなどで「ヴィオラ・ポンポーサ」をしてしているものが確認できます。この頃バッハが非常に親しかった弦楽器製作家ヨハン・クリスティアン・ホフマンが製作した肩掛け式チェロが現在ブリュッセルの博物館に収蔵されています。新しい響きが大好きなバッハがこのホフマンの楽器を知らないはずがありません。バッハはヴァイオリンやヴィオラ奏者としても活動したので、これらと同じ構え方で演奏できる「チェロ」を自身で演奏していたかもしれません。
今回の公演では日本国内でヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ=ヴィオラ・ポンポーサを研究し演奏している弦楽器奏者の天野寿彦さんをお迎えし、またこの楽器を以前から弾いている丹沢広樹さんを交えて、バッハの目線から見たヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの隠された歴史を追うトークコンサートです。演奏曲目はもちろんバッハを中心としたレパートリーで、これを聴けばスパッラにちょっと詳しくなれるに違いありません。なんと、演奏会で使うスパッラを製作した弦楽器製作家の高倉匠さんも駆けつけてくれることになっているので、製作家目線のお話もお伺いしようと思っています。ぜひ、お聴き逃しなく!
コンサート&ライヴ「フィレンツェの溜め息」
ムジカロゼッタ古楽コンサート vol.29
CD付き書籍「Selva d’amore 愛の森」出版記念
2023年11月 3日(金・祝)
【昼の部 公式公演】フィリア美術館 (山梨県北杜市小淵沢町)
13:30開場 14:00開演
前売一般¥3500 当日¥3800 限定40席
【夜の部 古楽ライヴ】カメリアニコティ (山梨県北杜市小淵沢町)
18:00開演
¥3000+ドリンク
原謡子(ソプラノ) 笠原雅仁(テオルボ) 杉本周介(アルピコルド)
昨年末に草枕社より出版されたCD付き書籍「Selva d’amore」。出版記念公演として、収録で通奏低音を務めてくださったリュート奏者の笠原雅仁さんをお迎えして、ジュリオ・カッチーニやその娘たちのモノディをお届けします。昼の部は録音会場となった響きの良いフィリア美術館で本の制作にまつわるお話とコンサート、夜の部は瀟洒な人気カフェ、カメリアニコティでトークと演奏のライヴを行います。
「Selva d’amore」は17世紀初頭の恋愛にまつわる歌の雰囲気や思想をより親しみやすくなるように、カジュアルなテイストで書かれたイメージブックです。セットになっているCDも原謡子の透明感のある歌声と笠原雅仁さんのテオルボのみの伴奏により親密な世界観を感じていただけるように配慮しました。録音会場として選ばせていただいたフィリア美術館
は余韻の心地よいあたたかい響きを持っており、今回フィリア美術館のご協力で、録音を行った場所で生演奏によるカッチーニ一族の音楽をお届けできることをとても嬉しく感じております。今回の出版企画の経緯や編集状の着眼点など、出版社目線でのお話をあわせて「Selva d’amore」制作を振り返ります。


