異国の王の夢と幻

コンサート『異国の王の夢と幻』

8月4日(土)は再び八ヶ岳中央高原キリスト教会での公演です。こちらは7月の熱い音楽とは全く正反対の「世にも静かな」コンサートです。まず最初にお伝えしておきますが、このコンサートは本当に静かな音楽会です。クラヴィコードなどはその日、外で蝉の声が激しくなると聴こえないのではないか・・とさえ思ってしまいます。でも小さい音は沈黙へ至る無限の説得力を秘めています。皆さんも大切な人に対して本当に大切なことを伝える時には小声でゆっくり話すでしょう?世の中には大きな音が氾濫しています。音が小さな楽器は静謐な世界へ私たちを誘ってくれます。心に静けさが戻ってくると普段は気づかなかった自分自身の気持ちに気がついたりすることがあります。

さて、皆さんは「ビウエラ」という楽器をご存知ですか?16世紀にイベリア半島で流行した撥弦楽器で、ちょうどギターを小さくしたような形をしています。この楽器はスペインのカール5世と息子のフェリペ2世の時代に花開きましたが、その後突然に衰退して歴史からは姿を消してしまった謎に包まれた楽器でもあるのです。このビウエラはとても魅力的な楽器で甘美で哀愁に満ちた音色を持っています。こんな素敵な楽器がなぜ突然消えてしまったのかは、コンサートの中で、私の推論をお話ししたいと思います。 

実はこの楽器、戦国の日本でも演奏されていたらしいのです。キリスト教の伝来とともにこうしたルネサンス期の西洋の音楽文化も日本に持ち込まれていたのですね。この他にチェンバロやヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、オルガン、クラヴィコードが日本に存在していたようです。今回のコンサートにお越しいただければ、織田信長や豊臣秀吉が聴いたであろう響きを体験できるというわけです。

この楽器は独奏しても美しいですが、特に私が大好きなのはビウエラを伴奏にした歌曲です。ちょっと民謡を思わせるような簡素な旋律が情感たっぷりに歌われ、それを寄り添うようにビウエラが支える・・初めて聴くのにどこな「懐かしさ」さえ覚えてしまいます。今回は日本のビウエラ界の重鎮、水戸茂雄さんにお越しいただきます。水戸さんとは昨年のはらむら古楽祭でご一緒させていただきましたが、その時披露してくださったビウエラの響きがとても鮮烈なものでした。ぜひ水戸さんの演奏を皆さんにちゃんとした形でお届けしたいと思いました。

そして歌は透明感のある歌声で定評がある原謡子。以前から彼女の声はビウエラ歌曲に合うと思っていましたので、とても楽しみです。私は同じ頃にスペインで黄金時代を迎えていた鍵盤楽器の曲を、1540年頃ナポリ(スペイン領)で作られたと言われるクラヴィコード(複製)を使って演奏します。このクラヴィコードは富士見町在住の製作家小渕晶男さんが製作したもので、彼はこの現存する最古のクラヴィコードの実物を調査しにライプツィヒ(ドイツ)の博物館を訪ねて、そこで得たデータや楽器の意図を元に復元したそうです。真夏の昼下がりにビウエラ歌曲。気分はオレンジやオリーブの香り漂うイベリア半島です。

『異国の王の夢と幻』

~16世紀スペイン宮廷が紡いだ魂の音楽~

■日時 8月4日(土)13:00開場 13:30開演

■場所 八ヶ岳中央高原キリスト教会

■出演 ビウエラ/水戸茂雄 ソプラノ/原謡子 フレット式クラヴィコード/杉本周介

■お問い合わせ ムジカロゼッタ 090-7695-9441

前売一般¥3000  前売ペア¥5500   高校生以下¥1000

当日一般¥3500(当日ペア券はございません)